中国の労基法は1週間の労働時間は44時間とし、それ以上の労働には残業代を支払うことが定められている。しかし多くが法律を守っていない。そして活発なオンラインの利用が中国でにわかに急増しているテック部門における労働時間を長くしている。スタートアップの労働状況を改善するために社会のあちこちから人々が集まって声をあげているが、その一方で働くほどに成功につながる、という考えが染み込んでいる文化における障壁を指摘する人もいる。

3月下旬、匿名の活動家が996.ICUを立ち上げた。このドメインネームは中国人プログラマーの疲労困憊生活を意味している。最終的に集中治療室(ICU)送りになるリスクを伴いながら午前9時から午後9時まで、週6日働くというものだ。このサイトでははっきりとタダ働きの残業を禁じている労働法の詳細が案内されている。そしてややもったいぶって間をあけ、その下にスローガンがある。「Developers’ lives matter(デベロッパーの命も大切だ)」。

996.ICUというプロジェクトは、Microsoftが所有するコードツール共有サイトGitHubでもすぐにフォローされた。プログラマーが大勢集まって不満をさらけ出し、996労働を強いているとされる中国企業のリストを作った。そのリストには、eコマース大手のAlibaba、JD.com、Pinduoduoのほか、通信機器メーカーHuaweiや、ショートビデオアプリTikTokの親会社Bytedanceといった有名どころも名を連ねている。

TechCrunchへの電子メールによる回答で、JDは従業員に残業を強制していない、と主張した「JD.comはイニシアチブやハードワークに報いるという競争原理が働いている職場であり、これは我々の起業家というルーツに調和したものだ。我々は同じハングリー精神や価値観を共有するスタッフを求め、育成し、報いることで、そのルーツに戻りつつある」と広報は話した。

AlibabaはGitHubでの動きについてのコメントは拒否したが、創業者のJack Ma(ジャック・マー)氏は4月12日、996について自分の考えをWeiboで共有した。「どの企業も従業員に996で働くことを強制すべきではないし、強制もできない」とMaは書いている。「しかし若い人々は、幸福は勤勉からくるものだということを理解する必要がある。私は996を弁護はしないが、勤勉な労働者には敬意を表する!」。

Bytedance(バイトダンス)は、従業員が996で働いているかどうかについて、コメントはしなかった。また我々はHuawei(ファーウェイ)にもコメントを求めたが、この記事執筆時点で、返事は得られていない。

996.ICUは、世界で最大のソースコードのホストとうたっているGitHubで瞬く間に最も人気のプロジェクトになった。この抗議は明らかにテック大企業に向けられていて、中国のユーザーはその後すぐに、996を強いている企業が運営する多くのブラウザで996.ICUウェブページへのアクセスが制限された。

996ジレンマ

996のリストは、GitHubユーザーからの任意の情報提供で構成され、完全なものにはほど遠い。また、会社での平均労働時間をはっきりさせるのは難しく、部門によって規則が異なる数万もの従業員を抱える大企業では特にそうだ。例えば、他の部門の社員よりデベロッパーの労働時間が長いことは広く知られている。TechCrunchが聞いたところでは、とある組織のボスはしばしば、従業員との雇用契約に996を明記することなく、非現実的な業績評価指標を設定するなど、抜け道を開拓する方法を探している。

「我々の会社は996を強いることはないが、時に直属の上司の管理の不手際により、管理上の締め切りに間にあわせるために長時間労働を強いられることがある」と、ネットワーキングサイトで働く北京在住のエンジニアはTechCrunchに対し語った。このエンジニアは匿名で語った多くのソースの1人だ。なぜ匿名かというと、メディアに語ることを認可されていないからだ。

他の企業は、激務カルチャーを誇りにしていて、996についてより積極的に語る。Tencentがサポートし、Shopify(ショピファイ)に似ているeコマースソリューションのYouzan(ヨウザン)は明らかに996ワークスタイルをスタッフに求めている。このため従業員は1月に地元の労働当局に苦情を申し立て、当局はYouzanの調査を開始した、と言われている。

多くの企業がYouzanと同じく、長時間労働イコール成功とみている。そうした考え方はプログラマーや他の労働者に時間外労働を受け入れるよう駆り立てる。しかし燃え尽きてしまうのは従業員だけでなく、起業家たちはゼロから立ち上げた事業を成長させるためにさらに大きなプレッシャー下に置かれている。

「996をめぐる最近の論争は、中国のテック産業における熾烈な競争に光をあてることになった。生き残るためにスタートアップや大企業はかなりハードに働くより他はない。何人かの有名な起業家は1週間に100時間超も働いている」とアーリーステージファンドChina Growth Capitalの投資副部門社長Jake Xie氏はTechCrunchに話した。

「残業は多くのインターネット企業で常態化している。たくさん働かなければ、負けてしまう」と深セン拠点のモバイルゲーム開発スタートアップの創業者は語る。中国のモバイルゲーミング部門における競争は特に激しく、独創力が不足する中で成功への近道は、すでに知れ渡っている商品を打ち負かすことだ。それゆえに、スピードが命だ。

一方、中国で業績を重視する文化が起こっていて、これは社会の996への抵抗をないものにしてしまうかもしれない。こうした文化は、汗をかいてストレスを解消するためのスポーツジムやヨガスタジオに集うよう個人を駆り立てる。また、毎晩仕事に戻る前にグループで食事をとるのがそれぞれの社会生活にとって、特に子供を持たない人にとって不可欠なものになる。

「働くほどに学ぶことが多い、という考え方がある。一部の人はもっと働きたい、と考えていると思う。そうした人たちの割合は22〜30才で最も高い」とワークライフバランスに価値を置く、上海在住のテック企業幹部はTechCrunchに話した。「私のチームの何人かは、996の企業で働く彼らの友人ほどに速く成長することはできないと感じている、との考えを表した」。

「若い時に996のように働かなければ、いつ働くのか?」と54才のマー氏はWeiboへの投稿に書いている。「今日に至るまで私は996どころか、少なくとも12〜12で働いている。996を実行している人みんなが、偉業に近い価値あることをできるチャンスを手にしているわけではない。だから中国のBATが996で働けるというのはありがたいことだ」(BATは、中国のデジタル産業を牛耳っているBaidu、Alibaba、Tencentの頭文字をとった言葉で、米国のFANNGと同種のものだ)。

残業はもちろんテック産業だけに限ったものではない。中国の製造業分野においてはメディアや印刷業界もハードワークで知られている。隣国の日本ではサラリーマンの間で過労死という「残業による死」が多くあり、韓国企業もまた労働者に長時間労働を強いることで有名で、これは政府の介入につながった。

妨害にあっているにもかかわらず、996に反対する動きは中国国内で注目を集めた。流行りの話題「996ICUは大企業によって妨害されている」について2000近くの投稿があり、Weiboで630万もの閲覧があった。中国国営の放送局CCTVはインシデントを記録にまとめ、従業員に「実際に精神的、肉体的な重大な結果」を起こしている残業を非難した。中国外では、PythonのクリエイターであるGuido van Rossum氏が中国の996という働き方にちついてツイッターとフォーラム上で意識啓発した。

「中国の996プログラマーのために我々に何かできることはないだろうか」と彼はスレッドに書き込み、これは1万6700回閲覧された。

言葉だけの抗議で始まった996の抗議キャンペーンはすぐに実際の動きを伴うものになった。996.ICUプロジェクトに関与していないとする、上海拠点の弁護士Katt Gu氏とスタートアップの創業者Suji Yan氏は、反996ライセンスを進める。これは、オープンソースのソフトウェアを使うことで企業が中国国内やグローバルの労働法規に違反することがないようにするものだ。

しかし、一部の人はそうした制約がオープンソースの精神を傷つけるかもしれない、と注意喚起した。このオープンソースの精神とは、ソフトウェアは無料で提供され、学習、共有、クリエイターの作品を修正するできるよう、そのソースコードには誰でもアクセスできることを意味している。

「私は断固996に反対し、非難する。しかし同時にオープンソースプロジェクトに任意の箇条を加えたり、オープンソースプロジェクトを政治ゲームに使うことには賛成できない」とMITライセンスのもとにリリースされたオープンソースプロジェクトVueのクリエイターであるYou Yuxi氏は中国版TwitterのWeiboで語った(Guは彼女のプロジェクトには一切“政治的要素”は含まれていないとしている)。

その他には、さほど攻めのアプローチをとっていない企業もある。そうした称賛される企業は995.WLB GitHubプロジェクトを介して「午前9から午後5時まで、週5日勤務」という、より人間的なスケジュールを取り入れている。(WLBは「work life balance」の略)。この称讃企業のリストには、低成長で知られるが中国の自称ヒッピーに常に人気のある、本と映画のレビューサイトDoubanがある。従業員の職場外での生活を尊重するとうたっているコワーキングスペース提供のWeWorkもリスト入りしている。

996リストに挙がった多くの企業の多くは商業的には成功している一方で、長時間労働が成果を生む、という偏見を指摘する声もある。

「もし大企業で、996を強いていることが明らかになれば、問題はより注目される。YouzanとJDの例を考えるといい」と上海在住で企業向けソフトウェアスタートアップで働くデベロッパーはTechCrunchに話した。

「逆に言えば、996を強いていながら商業的に成功していない多くの企業は見過ごされている。企業の成長が996とリンクしているという十分な証拠はない。上司は労働時間ではなく、生産性に基づいてが部下の評価をすべきだ」。

また、他の人が提案するように、管理職の人はもっと働くことを部下に要求する代わりに、インセンティブを与えることに力点を置くべきだろう。

「(中国の)経済が失速しない限り、996を止めるのは難しい。これは個人の問題ではない。経済の問題だ。我々ができることといえば、人間的な配慮を提供し、労働者に労働時間を気にする代わりに「自由意志と情熱を持って働いているだろうか」と考えさせることだ」とChina Growth CapitalのXie氏は提唱した。

より洗練された労働時間になるまでにはまだ時間がかかるだろうが、専門家は労働者がよりいい待遇を求めることができる他のエリアを提案する。

「中国のほぼすべてのスタートアップは、特に創業まもないとき、すなわちシリーズAや、あるいはシリーズBのときすら社会保障や住宅の資金が不足しているようだ」と弁護士事務所Loeb & LoebのパートナーのBenjamin Qiu氏は説明する。

「996に比べると、従業員は規則に反していたり、経済的にダメージを与えているような件で強く法的手段に訴える。これは中国における公的な社会的信用や住宅資金要件が、シリコンバレーに比べて従業員にとってかなりの負荷になっていることを表している。しかしそれをもってしても、996文化の努力として理解されるかもしれない」。

私がインタビューした多くの人が匿名という条件で語った。それは彼らが属する企業が996を促進しているからというだけでなく、彼らの雇用主が996議論に巻き込まれたくないからでもある。ある企業の広報は「我々がワークライフバランスをサポートしていると人々に知らせる必要はない。行動で示す」と語った。

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(翻訳:Mizoguchi)

TechCrunch Japan

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