学術系クラウドファンディングサービス「academist(アカデミスト)」を運営するアカデミストは4月15日、アクセラレーターのBeyond Next Venturesと共同で募集していた「<Beyond Next Ventures × academist> マッチングファンド」第1弾の審査を通過した研究プロジェクト2件のクラウドファンディングをスタートした。2件のプロジェクトが研究費支援を募るクラウドファンディングの実施期間は6月17日19時まで。目標金額50万円を達成し、ファンディングが成立したプロジェクトには、Beyond Next Venturesから50万円の追加支援が行われる。

研究の発信の場として始まったacademist

アカデミストは、研究費獲得のためのクラウドファンディングサービスacademist、そして学術系メディア「academist Journal(アカデミストジャーナル)」を運営し、研究者を支援する事業を行っている。

両事業に共通するのは「研究者が発信する環境を提供すること」と、アカデミスト代表取締役CEOの柴藤亮介は語る。

柴藤氏は首都大学東京大学院に在学中、理論物理学を専攻していたのだが、隣にいる研究者とやり取りすることもなく、1人で論文を読んだり研究を進めたりする日々を過ごしていたという。

「同じ部屋にいる院生同士でも、研究分野が少し変わるだけで接点もなくなる。まわりの研究者が何を研究しているのか、知る機会が欲しい」と考えた柴藤氏は、分野を超えて、研究者が自身の研究について発表する場をセッティングしてみることにした。

初めは専門が異なれば、説明も分からないのではないかと思ったそうだが、実際に聞いてみると、「研究者が自分のリサーチクエスチョン(課題)を一生懸命説明するので、意外と分かる」ものだったという。そこで他人が進めている研究の大枠が分かることの面白さに触れた柴藤氏は、アカデミア以外の社会や企業に向けて研究を発信することも面白いコンテンツになるはずと考えた。この経験が、アカデミスト設立につながっている。

研究者が情報発信する場として、メディアだけでなくクラウドファンディングのプラットフォームを立てた理由は何か。柴藤氏は「メディアを運営するのは、発信の場としては直球だが、情報をまとめる研究者にとっては、研究を進めながら寄稿をするにはエネルギーも要るし、直接のメリットがない。それならば、研究費が得られるというメリットが見えた方が参加してもらいやすいと考えた」と話している。

2014年、学術系に特化したクラウドファンディングサービスとして公開されたacademist。これまでに、約100名の研究者がプロジェクトに挑戦し、研究費の獲得に成功した総額は約1億円に上るそうだ。

最初は理学系の研究プロジェクトが多かったが、最近では工学系や医学・薬学、それに人文・社会科学系の研究でもプロジェクトを公開するようになっているという。

これまでに公開され、成立したプロジェクトは「無人探査ロボットで東京ドーム1万個分の海底地図を描きたい!」「宇宙における星形成史を辿ってみたい!」といった研究としては王道らしいものから、「カラスと対話するドローンを作りたい!」といった“確かに科研費は取りにくいだろうけれども、何となく面白そう”なものまで、ジャンルも規模もさまざまだ。

筆者は個人的には「南米先史社会『シカン』の発展と衰退の謎を解明したい」という考古学調査のプロジェクトで、リターンに「発掘調査参加」権があるプロジェクトに興味がそそられた(この案件は既に募集を終了している)。

企業とのタッグでさらに研究者の課題解決へ

アカデミストでは研究者の課題解決をさらに進めるため、「企業マッチング型クラウドファンディング」を1月からスタートした。その第1弾として立ち上がったのが、大学発・技術系スタートアップの育成投資を手がけるアクセラレーターのBeyond Next Venturesと研究者を募ったマッチングファンドだ。

このマッチングファンドではBeyond Next Venturesが基礎研究に対し、短期的な成果を目的としない支援を行う。academistのプラットフォームで研究をプロジェクト化し、プロジェクトが目標金額を達成して成立した暁には、クラウドファンディングによる支援金額に加えて、研究原資の一部をBeyond Next Venturesからも追加支援する。

第1弾では基礎研究に「情熱」を持つ研究者を募集した。応募分野は幅広く、医学、生物情報学、社会学、化学、神経科学など多様なジャンルから熱意ある研究テーマが寄せられたそうだ。

今回はその中から、2件の研究プロジェクトが審査を通過し、4月15日から70日間のクラウドファンディングを開始することになった。

今回公開されたプロジェクトの1つは有機合成化学の分野で、従来の方法によらない有機合成の手法を研究したいというもの。「有機化学の発展には、新しい分子の合成ルート開発が求められる。そのためには、今までに知られている手法だけでなく、新たな分子変換の方法を開発することも重要」と考える学習院大学理学部助教の諸藤達也氏が、ケイ素と電子移動を利用する新しい有機分子変換法の開発を目指す

もう1つは神経科学の分野で、他の個体の「意識内容」を細胞移植で再現できるか、という研究だ。リンゴを見て「赤い」と感じたり、食べて「おいしい」と感じたりするとき、その「赤さ」「おいしさ」は意識内容と呼ばれる。非物質である意識内容は、物質である脳からどのように生み出されるのか。東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科助教の田中大介氏が、「細胞移植により、特定の意識内容を生み出している神経基盤を複数の個体間で再現する」というコンセプトを実証するための基礎研究に対して支援を募る。

企業マッチング型クラウドファンディング開始のきっかけについて、柴藤氏は「ひとつはクラウドファンディング達成総額を上げるため、法人の力を借りたかったから」と述べる。またアカデミアの外でヒアリングを進めると、企業の側にも解決したい課題が見つかったという。

「大企業で新規事業を立ち上げる際には、研究者を探しているというケースが多い。それならば、クラウドファンディングを通じて研究者を支援していく中で、そうした人を見つける場をacademistで用意できるのではないかと考えた」(柴藤氏)

アカデミストでは、Beyond Next Venturesに続き、今後他社にも企業マッチング型クラウドファンディングに参加してもらい、研究資金の支援を得たい考えだ。

「ノーベル賞を受賞するような研究は、成果が出るまでに20年、30年かかる。だが大隅良典氏のようなノーベル賞を受賞した研究者が若い頃やっていたような基礎研究が、今はできなくなっている。今、手がけようとしても『それが何の役に立つのか』という扱いを受けているような研究を、もっとacademistでピックアップしたい」(柴藤氏)

アカデミストとBeyond Next Venturesでは、今日の第1弾のプロジェクト開始と同時に、第2弾のマッチングファンドで新たな研究者募集をスタートさせた。第2弾の研究プロジェクト募集は2019年7月26日まで行われる。

「第1弾では『情熱』が審査のポイントだったが、第2弾では『異端』がテーマ」と柴藤氏。「最近話題の量子コンピュータも、最初は異端と思われていた研究から始まっている。なかなか認めてもらえないけれど、必ず世の中のためになるはず、という研究をジャンルを問わず、広く募集する」と研究者支援への思いを語った。

TechCrunch Japan

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